暮らしから紡ぐ旅のガイド。いなべ暮らしを旅する。

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そばの産地を訪ねる

written by
かみやかなこ
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三重の最北端、里山の原風景が美しく広がるまち「いなべ市」。鈴鹿山脈の麓にあり、秋になると冷たい風が吹き込み昼夜の寒暖差が出ます。この環境がそば作りにふさわしく、次世代までこの美しい風景を残していこうという想いから2002年よりそば栽培が始まりました。
現在では、三重県下1位のそば生産量を誇ります。
秋になると真っ白な美しい花が咲き誇り、なかには赤い花を咲かせる畑もあり、市内を紅白に美しく彩ります。
このそば粉を使い、市内ではそば打ちが盛んに行われ、手打ちそばや朝打ちたてのそばを食べられる場所も多くあります。
大切に育てられたそばは、香り豊かで噛み締めるほど甘味が広がるのです。

この里山を美しく彩る、そば畑のある風景を訪ねました。

このまちを美しく保ちたい

いなべ市でそば作りが始まったのは今から約20年前のこと。
「耕作放棄地を活用してこのまちを美しく保ちたい」という、市や農家らの想いから始まりました。

いなべ市藤原町のそば農家、藤田克己さんは50歳で市役所を早期退職後、2002年からそば作りを始めました。いなべはそば作りにふさわしい気候条件が整っており、主に「常陸秋蕎麦」を栽培しています。
2008年になると生産者も増え、そば農家8軒で蕎麦生産部会を結成。玄蕎麦出荷基準を設け良質な「いなべのそば」を生産しています。

いなべ市では、今から20年ほど前からそば作りが始まった。

種まきの季節は、秋に変わるタイミングで。今年は暑い日が続き、藤田さんは今か今かと種まきのタイミングを見計らっていました。

「9月台風がこないとわかったら種を蒔く。やけど、近頃は気候が変わっているのでタイミングが難しい」

そして、秋分のころ一気に気温が下がったその日に種をまきました。
「寒暖差があると野菜でも米でもおいしくなるでね」

そばがもっともおいしくなる時期を見定め、季節と対話しながら育てるのです。

蝶や蜂がそば作りを手伝う

蜂が飛んで蜜を吸う。こうして受粉することで、そばの実がなる

市内では10月頃になるとあちらこちらで真っ白なそばの花が美しく咲き誇ります。
よく見ると、蝶や蜂が訪れ、花の周りを飛び交い受粉しています。
蜂や蝶が、そば作りの一端を担っているのです。

幾種類もの蜂や蝶が舞う姿を見て「おぉ、いっぱいきとるな」と嬉しそうな藤田さん。
豊かな自然の中で人も自然も、昆虫も共存している環境だからこそ、美味しいそばが出来上がるのだそう。

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2025.11.21