暮らしから紡ぐ旅のガイド。いなべ暮らしを旅する。

  • 食

飾らないパンが 人を惹きつける理由「魔法のぱん」

written by
清田若菜
photo by
清田若菜 / 八木萌子
  • #にぎわいの森
  • #買い物
  • #パン

特別じゃないパンを、特別な熱量で作り上げている人たちがいる。
「魔法のぱん」オーナーの狩野義浩さんと店長の西川優さんだ。
二人が作るのは、特別な日に食べるパンではない。
毎日の食卓に並び、地域の人の日常に溶け込むパンだ。
そのために、昨日より今日、今日より明日へと、より良いパン作りを本気で追い続けてきた。
その姿勢が、この店の味を支えている。

人との出会いがつないだ いなべの出店

にぎわいの森の一角にある「魔法のぱん」。
食パンの販売時間には、店頭に行列ができるほどの人気店だ。
でも、この店は狩野さんの当初の計画にはなかった。

全国各地で経験を積んだ後、狩野さんは名古屋市に「peu frequente(プーフレカンテ)」をオープン。
人気店に成長したものの、「2店舗目を展開するつもりはなかったんです」と振り返る。

オーナーの狩野義浩さん

転機となったのは、「にぎわいの森」に関わる人たちとの出会いだった。
市長や市の担当者と実際に話し、その熱意に触れるうちに、「この人たちと一緒に何かをやってみたい」という気持ちが狩野さんの中に芽生えたという。
スタッフに声をかけたところ、「やってみたい」と手を挙げたのが西川さんだった。

店長の西川優さん

二人の出会いは、西川さんがパンの専門学校に通っていた頃にさかのぼる。
当時、講師の一人だった狩野さんは、「厳しいけれど、おいしいパンを作る職人」として有名な存在だった。アルバイト先を探していた時にpeu frequenteの募集を見つけて、働き始めたことが現在につながっている。

何をするにも精一杯取り組む西川さんの姿を見て、狩野さんは「店に良い影響を与えてくれるに違いない」と感じ、社員にスカウトした。
「技術は誰でも身につくんですよ。一番大事なのは、お客さんへの気持ちなんです。彼女にはそれが強くあった」
その西川さんが、いなべでの挑戦に手を挙げたことも、狩野さんの決意を後押しした。

「場所というより、人ですね」

立地や条件よりも、一緒に働く仲間や、この場所に関わる人たちの想いに惹かれた。
人との出会いの積み重ねが、いなべでの「魔法のぱん」の誕生につながった。

地域の人に毎日食べてもらえるパンを作る

製造は狩野さんと西川さんの二人だけ 多い日は1日3,000個を二人で作る

「狩野さんはいつも、地域の人のために作りたいって言っているんです。私もその考えが自然と自分の中に入っています」

二人が目指しているのは、地域の人が日常の中で手に取り、何度でも食べたくなるパンだ。

その想いは、パン作りそのものに表れている。
毎日食べても体に負担がないように、砂糖や塩は必要最小限に抑え、油脂も使うのはバターのみ。
素材がシンプルだからこそ、長時間発酵と熟成によって小麦本来のうま味を引き出している。
温度管理も細かい。
冷蔵庫の温度は季節ごとに調整し、前日の夜には翌日の天気や湿度を確認しながら仕込みを行う。
バターを入れるタイミング一つにも気を配り、日々最適な状態を見極めている。

「飾ろうと思えば、どこまでも飾れるけれど、狩野さんはしない」と西川さん。

二人が作るのは、素朴で体に負担が少なく、価格も含めて手に取りやすいパンだ。
体調が悪い時でも「魔法のぱんなら食べられるかもしれない」と思ってもらえるような、やさしいパンを焼き続けている。

1 2
2026.7.24

おすすめ記事。

記事一覧をみるView all
記事一覧をみるView all